耐震診断とホームインスペクションは、建物の安全性を評価する点で共通していますが、異なるアプローチを持っています。本記事では、まず耐震診断を行うべき建物の特徴について解説し、次に耐震診断には2種類の方法があることを述べます。そして最後に、ホームインスペクションと耐震診断の違いを明確に示し、それぞれの重要性を読者に伝えます。
耐震診断をしておきたい住宅の特徴とは
耐震診断をしておきたい住宅の特徴として、特に耐震基準が適用されていない建物が挙げられます。耐震基準は建築基準法によって定められる最低限の耐震性能基準であり、住宅建築時には必ず守られるべきものです。
耐震基準は大規模地震の発生を受けて改正が重ねられ、1981年6月の改正では特に大きな転換点となりました。この改正以前の基準を「旧耐震基準」、以降の基準を「新耐震基準」と呼び区別しています。
「新耐震基準」では、震度6強〜7程度の大規模地震で倒壊しない、震度5強程度の中規模地震でほとんど損傷しない性能が求められます。一方、「旧耐震基準」では、震度5強程度の中規模地震で倒壊しないとされていましたが、過去の大規模地震ではこの基準で建てられた住宅が多く被害を受けたため、耐震化整備が急務とされています。
「新耐震基準」で建てられた住宅であっても経年劣化があり、台風や地震による影響で雨漏りや結露が発生し、木材の腐朽やシロアリの被害が進行する可能性があります。そのため、本来の耐震性能を維持するためには定期的な建物の状態確認が必要です。
特に1995年に施行された「耐震改修促進法」では、新建築基準を満たさない建築物に対して耐震診断や耐震改修を促すことが目的となっており、2025年までに耐震性が不十分な住宅を解消することが目標とされています。
このような背景から、「旧耐震基準」で建てられた住宅は耐震診断を受け、必要に応じて耐震補強を行うことが重要と言えるでしょう。
耐震診断には2種類の方法がある
耐震診断には一般的に「一般診断法」と「精密診断法」という2つの方法があります。それぞれの特徴や目的について説明します。
一般診断法とは?
一般診断法は、主に屋根裏や床下、基礎、外周などを非破壊的な目視チェックで調査します。また、建物の図面情報を元に必要な評点を算出し、建物構造の強さを総合的に評価します。この方法の調査時間はおよそ2〜3時間で、比較的短時間で済み、コストを抑えることができるのが特徴です。
一般診断法は木造住宅の耐震診断によく用いられる方法であり、大まかな耐震性能を把握するのに適しています。
精密診断法とは?
一方、精密診断法は、柱や耐力壁などのすべての重要な構造部分に対して、必要に応じて破壊を伴う厳密なチェックを行います。さらに、図面による分析も一般診断法より詳細な計算が行われ、劣化状態を含めてより詳細な建物構造の強さを評価します。
精密診断法の調査時間はおよそ半日から終日で、一般診断法よりも時間とコストがかかります。精密診断法は耐震改修工事を行う際に用いられることが多く、より詳細な調査結果に基づいて耐震補強計画を立てることができます。
耐震診断の目的は、建物の耐震性能を評価することにあります。極めてまれな大規模地震の発生時に建物の倒壊の可能性を把握し、適切な措置を講じることで、家族の安全と安心を確保することが目指されます。
適切な耐震診断を通じて、住宅の耐震性を向上させることは、地震災害に対する防災対策として非常に重要です。
ホームインスペクションは耐震診断と何が違うのか
ホームインスペクション(住宅診断)と耐震診断は、目的や内容において異なるアプローチを持っています。ホームインスペクションの目的は、主に建物の劣化状況を中心にコンディションを調査することです。
ホームインスペクションは住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、目視チェックを通じて屋根裏や床下、基礎、外壁、外周、室内などを調査します。目的は欠陥の有無や劣化箇所、改修すべき箇所を把握することで、住宅の健康状態やリスクを明らかにすることです。
これにより、計画的な修繕やリフォームを行い、長く快適に住み続けるための支援をします。一方、耐震診断はホームインスペクションのオプションと位置付けられる場合があります。耐震診断の目的は、建物の耐震性能に特化して調査することです。
建物に精通したホームインスペクター(建築士)が、客観的な立場から現在の耐震基準に適合するかを診断します。耐震診断は一般的に、一般診断法と精密診断法の2つの方法があり、建物の耐震性を評価します。
耐震診断を行うことで、大規模地震時の倒壊リスクを把握し、家族の安全と安心を確保することを目指します。
つまり、ホームインスペクションは主に建物の劣化状況や欠陥を調査し、リスクを把握して計画的な修繕をサポートするのに対し、耐震診断は建物の耐震性を評価し、地震に対する安全性を確保することを重点としています。両者は異なる目的を持ち、住宅の点検・管理をより全面的に行うためには、両方を併せて行うことが有益といえます。
まとめ
建物の耐震診断においては、特に現在の耐震基準が適用されていない建物や、劣化が進んでいる建物が重要な対象となります。耐震診断には一般診断法と精密診断法の2つの方法があり、それぞれ調査の深度とコストが異なります。
一方、ホームインスペクションは建物の劣化状況を中心に調査し、リスクを把握して計画的な修繕をサポートします。耐震診断とホームインスペクションは目的やアプローチが異なるため、併せて行うことでより全面的な建物点検と管理が可能となります。