限られた土地を有効活用するために、一階を駐車場に使う家が都市部には数多くあります。すでに居住済みの人だけでなく、新築を希望する人にとっても、耐震性は大いに気になるところでしょう。今回の記事では、一階が駐車場だった場合、耐震性に問題はないのか、説明しています。地震対策のひとつとして、頭に入れておいてください。
壁の少ないピロティは倒壊の危険性が高い?
一階が駐車場になっている建築構造は、ピロティと呼ばれています。みなさんも、一度はどこかで耳にした言葉かもしれません。ピロティとは、通常の建築構造と違って、壁ではなく柱だけで建物を支える、吹き抜け空間のことを指します。
マンションやホテル、オフィスなどによく利用されるもので、意味は、フランス語でいうところの杭です。制約のあるスペースを最大限に活かすうえで、とても便利なピロティですが、構造の特質上、地震に弱いという側面があります。
都市部に多い木造3階建ての家や、縦長のマンションを例に挙げてみましょう。木造の建築物は、地震の揺れに対して、壁で支える仕組みになっています。ところが、ピロティ構造の一階駐車場には、その壁が十分にありません。ほぼ柱だけで、均衡を保っている状態です。
では、実際に大きな地震が起こったらどうなるのでしょうか。柱だけでは耐え切れず、倒壊するリスクが高まるのは、ある意味当然のことでしょう。さらに、マンションのように、縦長構造の建築物は、耐震性に難のあるピロティに、地震の負荷がのしかかり、そこを起点として倒壊しやすくなります。
阪神淡路大震災や数年前の熊本地震でも、ピロティ構造の建築物が倒壊しています。ほかの建築構造よりも、地震に対する脆弱性を露呈しました。余談ですが、ピロティには構造的なピロティと、意匠的なピロティの2通りあります。
前者は、一階は柱を中心に支えられていますが、二階には地震に強い壁、いわゆる耐力壁が用いられているのが特徴です。後者は、耐震スリットという仕組みを取り入れ、柱だけではなく、建物全体で地震の揺れを受け止めるものです。デザイン的には、ピロティと変わりませんが、構造的に異なります。
どんな耐震補強工事をすればよいのか
たとえ耐震性に問題があっても、広々とした土地が見込めない限り、一階を駐車場として活用する以外に選択肢はないかもしれません。現実的には、耐震補強工事が欠かせないでしょう。それには、いくつか方法があります。
まず、注目したいのは、柱巻き補強といわれるものです。もともと立っている鉄筋コンクリート製の柱に、補強材を巻いていく工法で、柱そのものを強化するのが特筆すべき持ち味となっています。
補強材には、鉄板や炭素繊維、コンクリート、ポリエステル性のベルトなどが使われます。仕口ダンパーという、耐震補強金物を使うのも、対策のひとつです。柱と梁のつなぎ目である仕口に、仕口ダンパーを挟むことによって、地震のエネルギーを吸収する特性が活かされます。
その結果、壁があるのと同じような効果が期待できるわけです。もちろん、柱だけで支えるピロティの弱点を、あえて耐力壁などで補強する手段もあります。しかし、ピロティならではの利便性や外観の魅力が半減するおそれもあり、慎重な判断が求められるところでしょう。
耐震診断を受けて適切な対応をしよう!
先述のとおり、安全性向上を1番に考慮したうえで、最も適切な耐震補強工事を選ぶことが大切です。どのような耐震補強工事に踏み切るかは、耐震診断の結果が前提になります。耐震診断は、一般診断、精密診断、簡易耐震診断の3種類です。
一般診断は、目視による、外観などの非破壊診断がメインになっていて、費用の目安はおよそ10万円です。一方、精密診断になると、ときに壁や天井などを剥がす必要があるので、費用も20万円ぐらいに上がります。
もっともお手軽にできるのは、簡易耐震診断といわれるものです。住まいのある各自治体が実施している耐震事業の一環で、自治体側が診断志望者に、専門技術者を派遣するシステムになっています。ほとんどの自治体が無料です。
また、財団法人日本建築防災協会のサイト上で、誰でもできるわが家の耐震診断という、アンケート形式の自己診断コンテンツを試すのもいいでしょう。上記の診断方法による結果をベースにして、ピロティ改修補強工事でもっともふさわしいものを選んでみてください。
まとめ
都市部でよく見られる狭小住宅では、一階が駐車場として利用されているところも数多くあります。限られた土地を賢く活用するためには、避けられない知恵と工夫といってもいいでしょう。
外観的にもスタイリッシュで、使い勝手がよいものですが、耐震性という観点からすれば、やや問題があります。今回の記事では、ピロティ構造の特徴、柱巻き補強や仕口ダンパーなどの耐震補強工事について解説しました。
すでに住んでいる人も、今後、ピロティ構造の家を建てようと考える人も、我が家の耐震性向上は、急務の課題といっても過言ではありません。本記事で説明した内容が、将来に渡って安全に暮らすために、みなさんの具体的な行動を促すきっかけになれば幸いです。